正しいなんてあやふやを信仰する愚か

ひとりで生きるための懺悔。大人になる虚しさ。

カノン

知るはずもない神話の時代
赤と青が交わって
無計画の上うまれた紫
私たちはカノンと呼んだ

8月の林檎
潮風走るオレンジの青少年
煤色をした家鴨(あひる)
愛なんか宝箱に隠して
忘れてしまったこどもたち
神様は、どうして与えてしまったのか

幾千万にも及ぶ星の瞬きを経て
幾重にもなる推敲をもってして
知るはずもない神話の時代の
産みおとされてしまった時代の

カノンが成人する頃に
青はにへら 橙の腰を抱いて
カノンが成人する頃に
赤はにへら 紺色の街に溶けてった

カノンの知る神話は
その範囲であって
知るはずもない神話は
無限に散乱する

カノンの話す神話は
その限りであって
伝え聞いた話とは
若干違うと言える

耳から脳へ、脳から舌へ
伝ったもの感情を纏って
不正を施して歪になって
だがそれが歪であることを
カノンでさえ知りはしない

真実(まこと)を知る者は何処にもいない

もし神様がいるのだとしたら
カノンはそれを殺すだろう。
神様が見ているのだとしたら
カノンはそれを殺すだろう。

じっと見ていたからではなくて、
不正を咎めたからでもなくて。

彼が齧った石榴の(しずく)
瞼を掠めてしまう前に
秋の夜の肥えた月が
それに呑まれてしまう前に…

金木犀が全て、空から堕ちてしまう前に
ただきっと「そうか」と言いながら。