正しいなんてあやふやを信仰する愚か

ひとりで生きるための懺悔。大人になる虚しさ。

停滞展翅

停滞前線私の部屋に居座るまま 秒針は8を指そうとして進まぬまま

それでも額の向こうは変わっていく 私は変化を求められていく

 

 

流れる前の宙の塵

蛹の中のアゲハチョウ

焼き上げる前のマドレーヌ そんな名前の天使たち

 

その日は暗幕の夜 彼らはぬるい水の中に命を遊ばせて

誰も知らないそんなとき 降って現れた砂のような黒い手

宙の塵や命 甘い匂いのきいろい生地を

その他の天使の何より大切な煌めきたちを

ひとつ また ひとつ 壊し、溶かし、あるいは燃やして

これを教育と呼んだ。

 

琥珀のベールを浴びる純白の天使たちは

まるで脚を得た人魚たちのよう 喉を震わすことができない

驚き、理解できぬまま 羽だけが枯れていく。

革靴を鳴らして現れた通達を持った枝のような黒い腕は

「現在から10年以上の月日を取り上げることとする」

その一文を示し これを助言と呼んだ。

 

宙の塵の手伝いも アゲハチョウへのまじないも マドレーヌとの約束も

それがなければ飛べるはずもなく

それが飛ぶ、飛べる理由だったと

皆が知っていた。

そんなこと知っていて、天使は人にならなければならない。

空の広さを知っていて、彼らはもうそれを許されない。

ものごころついた頃からの全てが今急に灰になって

それでも彼らは生きていかなければならない。

その残酷な10年を人はやさしさと、ただしさと呼んだ。

 

 

動かない秒針の音があと315360000秒を数える

皆が知っていることに気づかなかった間抜けがいて

彼だけがまだ暗幕の夜に囚われている。

全てを教えるメロディーを乗せた風が夜を縫って逢いに来た。

成す術無く 朽ち果てを待つ天使たち

醜い10年の終わりを待つ彼らに

きっと彼らに 本当の救いはやってこない。

彼らはもう恐れている。

空を 世界を