正しいなんてあやふやを信仰する愚か

ひとりで生きるための懺悔。大人になる虚しさ。

山月記 初読の感想と続きを考えてみる。

高校生のとき授業の課題で書いたものです。
当時、いや今となっても、みんなはどんな続きを書いたんだろうと思います。そんな思いを持つ人に読んでもらえれば嬉しいです。

【初読の感想】
現実と夢の間で苦しむ事象はいくらだってあるけれど、虎となって目を背けることができた李徴は、ある意味神に愛されていたのだと思った。

【続きを考えてみる】
袁傪と会った日、その後、日を待たずしておれは虎になった。というのも、頭では人間のような思考を持てる時もあるというのに、身体はどうしても虎の方が支配しているのだ。日を追うに虎は残虐になり、こうなったことを割り切ったはずであるおれの、まだ分かりたくない半身であるかのように、虎は人間を今までより確実に狙い始めた。ふと気付けば、村を襲い、結局虎をなだめられぬまま、おれは「ああ、虎は、おれが人間であったときに、うまくいかなかったことを人間のせいにして復讐しているのか。」と思った。自尊心だの羞恥心だのと言っておきながら、まだ己だけの非を認められないおれが虎に、逆恨みを暴走として促していた。



ある日、袁傪に命が下った。この頃、村で暴れ回り人々に恐怖をもたらしている虎を捕らえろというのだ。観察御史の仕事は嶺南で一段落し、しばしの休息の間に下された命であった。李徴のことが頭をよぎったが、手が空いているのが袁傪しかいなかった為、彼はしぶしぶ命についた。



土煙と干からびた夏草の匂いがする。おれは、否、虎は今日も今日とて村を襲っていた。しかし、この日はいつもと大分違っていたのだ。火の手が回り、男たちの声がする。おれは、人間を脅かすこの虎をようやく捕まえに来たのだと悟ったが、虎は本能より火の手を避けて人間の思惑通り、壁際に追い詰められた。そこからは、人間の意識を失ったようで、次に気づいた時、おれは檻の中にいた。
ああようやく捕らえられたのだと、実に安心したのだ。この虎は害獣だ。早急に命を奪うべきなのだ。



袁傪は落ち着かない様子で何度も筆を取って、置いてをくり返す。今日の報告書を書こうにも、虎のことが気になって仕方がない。壁際に追い詰めたあの虎は、獣であった。どんな獣よりも獣らしく、本能のままに振る舞う様は、どんな生き物よりも生き物らしい。しかし袁傪が気になったのは、怒りと、それよりも大きな悲しみを宿した瞳だった。袁傪は虎の目利きができるわけではない。一度だけ、目にした、虎となった李徴なのかどうか、真偽はわからない。それでも袁傪はあの瞳に李徴を感じたのだ。
冷ややかな夜の空気に亀裂が入る。それは虎の叫びだった。どんな意味を示した音なのか、それは男と同じ身の上になった者でなければわからないのか、否、袁傪には感じ取ることができた。その晩虎が収容された檻は、被害に遭った村の人間によって燃やされたという。燃える檻の中で、又、檻が燃えていることなどわずかにも思っていない人間の部屋で、二人の男が涙を流した。後日、流れた噂によると、燃えた檻の焼け跡から見つかったそれは、獣のものではなかったという。

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高校生の頃の文章、読点がくどすぎてびっくりしました。
多分そのままで書けていると思うのですが、自筆のものが返って来なかったので当時の自分が表記したそのまんまかは自信がないです。
もしよかったら他のページも読んでみてください。

『二月の夜の雨』
https://mumyouai.hateblo.jp/entry/2023/02/10/051609