正しいなんてあやふやを信仰する愚か

ひとりで生きるための懺悔。大人になる虚しさ。

蝸牛の殺意

「おまえは間違っている」
あの人がそう言って
私を非難して
「おまえは間違っていないのか」
という問いに
「私は一欠片たりとも
間違っていない」と
憎しみに呑まれた瞳で

私は
天秤に尋ねてみる
「どちらが間違っているのでしようか」
天秤は
話も全て聞かぬうちに
「そりゃどっちもどっちだね」と
話を全て聞かぬうちに
何がわかるのだと
根気強く聞かせようとする私に
「うるさいよ」と
天秤は私を追い出した

明くる日も
あの人は
「お前が間違っている」
と言って
「お前がおかしい」
と言って
明くる日も
天秤は
「うるさいよ」
ともう取り付く島さえなく

だんだん私は私がわからなくなって
私を形成するものがわからなくなって
何を正しいというのかわからなくなって
信じてきた私の全てを
何ひとつ信用ならない気がして

天秤があの人の話を黙って聞いていると知ったとき
この世の全てに私がいないものとして扱われた瞬間に
全てがどうでもよくなって
未来なんてなくて
未来なんてどこにもなくて
あるのは
それならば、もう全て
壊してしまおうと
手に取った未来だけ