正しいなんてあやふやを信仰する愚か

ひとりで生きるための懺悔。大人になる虚しさ。

Am.4:13

いつしか、あまい
やさしい柔軟剤の香りは
私のなかで妹を指すようになった
まるで、くじらの中みたいな
まあるい夜空を見上げて
ぷか、ぷか、と
それを食ったり捨てたりしながら
横断歩道の黒い部分に
出た手足が
冷たいそれに浸かっている
料理をしてみると、
塩胡椒は案外大事で
それを忘れていると
やっぱり、何かが欠けているとかんじる
母親の存在は
ある人間が料理になる前の
下ごしらえみたいだ
塩胡椒が欠けている
それはくじらの中で
呼吸していたり、深くねむっていたり
冷えた空気に手足を浸からせている
ちいさな、
ちいさないのちと出逢うことで
補うことができるのだろうか?
白身魚の木目を数えて
たしかに数えて
待っている
私がよわぽっちの泣き虫だということは
秘密だ
それは、私を知っている人だけが
知っている、大きな秘密だ



ときどき、自分という人間の存在が
不確かになる
そっと睫毛を震わせて、
毛布の中で息を殺していきるとき
そっと、私の画面以外が
実体の感覚がフェードアウトするとき
そっと吐いた息を
誰にも数えられなかったとき
ずっと、私は私が証明している気でいた
他の誰かなんて必要なかった
それでも真実は他人の中にあった
私は他人の中にあるのだった


ゆうべ、緑の中を歩くひと
月に寝ころんで、
眼鏡は
物珍しい非現実
ずっと行きたいところが
逃避先だと気づいたときに
また、たましいがしんだ
ひとつ、ひとつ
潰されていく
なにをもって、正気というのか
なにをもって、これを続けるのか
事実を言葉にするだけで
とくん、とくんと泣く場所が
自分の爪で、切り裂かれていく

気が付かないで、あなたは
知ろうとしないで、あなたは
どうしようもない自分に気づいたとき
鏡の前で立ち呆けて
なにを描くだろう
逸らせず、終わらせたくなる